なぜ「認知症発症前」に家族信託が必要なのか
仙台市を含む宮城県でも、高齢化の進展とともに認知症患者数は年々増加しています。親が認知症を発症すると、本人の意思確認が困難になり、本人名義の不動産を売却・賃貸・リフォームすることが法律上できなくなるという問題が生じます。
たとえば、親が所有する実家を売却して施設入居費用に充てようとしたとき、すでに認知症で判断能力がない場合、家族の同意だけでは売却手続きを進めることができません。成年後見制度を利用する場合でも、裁判所への申立てから選任まで数ヶ月かかり、後見人(弁護士・司法書士など専門家)による管理が始まると、家族が自由に財産を動かせなくなるケースもあります。
「家族信託(民事信託)」は、こうした問題を事前に防ぐための制度として、近年注目されています。
家族信託とは何か
家族信託(民事信託)とは、財産の所有者(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を任せる法的な仕組みです。
登場人物の役割
つまり、「親が自分の不動産を子どもに管理を任せるが、家賃収入や利益は引き続き親自身が受け取る」という設計が基本です。
信託の目的と効果
家族信託を設定すると、受託者(子ども)が信託された不動産の管理・賃貸・売却・修繕などを委託者(親)の判断を経ずに行えるようになります。これにより、親が認知症を発症して判断能力を失った後も、不動産の適切な管理・活用が継続できます。
家族信託と成年後見制度の違い
家族信託と比較されることの多い制度が「成年後見制度」です。主な違いを整理します。
| 比較項目 | 家族信託 | 成年後見制度 |
|---|---|---|
| 開始できる時期 | 判断能力があるうちに開始 | 判断能力が低下した後に申立て |
| 管理者の選定 | 家族が自由に選べる | 裁判所が選任(専門家後見人になることも多い) |
| 不動産の売却 | 信託設計次第で可能 | 家庭裁判所の許可が必要なケースあり |
| 費用 | 設計費用のみ(継続費用なし) | 専門家後見人への報酬が毎月継続 |
| 柔軟性 | 高い(信託契約の設計次第) | 低い(本人利益保護が優先) |
成年後見制度は、本人の財産を守ることを最優先とするため、「投資・賃貸経営の拡大」や「積極的な資産活用」には制限がかかりやすい側面があります。一方、家族信託は家族が主体的に設計・運用できるため、不動産オーナーにとって使い勝手が良い制度です。
家族信託で対応できる不動産の管理・活用
賃貸経営の継続
親名義のアパートや賃貸マンションを子どもが受託者として管理し、家賃収入の収受・修繕対応・入居者対応などを代行できます。
空き家の処分・売却
親が施設入居後に空き家となった実家を、子どもが受託者として売却手続きを進められます。売却代金は引き続き親(受益者)のものとなり、施設費用や生活費に充てることができます。
不動産のリフォーム・建替え
古くなった建物のリフォームや建替えも、信託契約の内容次第で受託者が進めることができます。
二次相続・三次相続の設計
信託設計を工夫することで、「親が亡くなったら子ども、子どもが亡くなったら孫へ」という受益者の承継順序をあらかじめ設定できます(受益者連続信託)。
仙台での家族信託の手続きと費用の目安
手続きの流れ
費用の目安
| 費用項目 | 目安 |
|---|---|
| 専門家(司法書士等)への設計・コンサル費用 | 30万〜80万円程度(財産規模・複雑さにより変動) |
| 公正証書作成費用 | 数万円程度 |
| 不動産の信託登記費用(登録免許税) | 固定資産税評価額の0.3〜0.4% |
| 信託口座開設費用 | 金融機関により異なる(無料〜数万円) |
成年後見制度の専門家後見人への月額報酬(月2万〜6万円程度が目安)と比較すると、家族信託は初期費用はかかるものの長期的なランニングコストが低いことが多いです。
家族信託の注意点・限界
相続税対策には直接なりにくい
家族信託は財産管理の仕組みであり、相続税そのものを減らす直接的な節税効果はありません。相続税対策は別途、生前贈与や不動産評価の圧縮などの手法と組み合わせて考える必要があります。
信託設計が不適切だと機能しない
信託契約書の内容が曖昧だったり、対象資産の範囲を誤ったりすると、いざというときに機能しないリスクがあります。経験豊富な専門家に依頼することが重要です。
受託者(子ども)の負担と責任
受託者になった子どもは、信託財産を善管注意義務に基づいて管理する法的責任を負います。不動産の管理経験が少ない場合は、信頼できる不動産会社への管理委託との組み合わせが実務的な対策になります。
まとめ:家族信託は「元気なうちに」が鉄則
家族信託は、委託者(親)に十分な判断能力がある段階でしか設定できません。「そろそろ認知症が心配になってきた」という段階では手遅れになる可能性があります。
仙台市内で不動産を所有する高齢の親をお持ちの方は、早めに家族信託の専門家に相談し、将来の財産管理・不動産活用について家族全員で話し合う機会を持つことをお勧めします。適切な準備が、親も子も安心できる財産管理の実現につながります。
著者
森 信幸
代表取締役 / エムアセッツ株式会社
宅地建物取引士(宮城県 第018212号)
仙台市青葉区を拠点に、シャーメゾンを中心とした高品質賃貸物件を所有・運営。全棟ペット可の方針で、入居者とペットが快適に暮らせる住環境づくりに取り組んでいます。
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