賃貸物件の退去ガイド
|原状回復の範囲と敷金返還のポイント
賃貸物件の退去・原状回復は、借主と貸主の双方にとって重要な手続きです。 国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づき、 借主が負担すべき範囲・敷金返還の仕組み・トラブルを防ぐ実践的なポイントを解説します。
退去の流れ(5ステップ)
退去通知から敷金返還まで、一般的に2〜3ヶ月程度かかります。余裕を持って手続きを進めましょう。
STEP 1
退去通知(解約通知)を提出する
退去の意思を貸主・管理会社に書面で通知します。通知期限は契約書に記載されており、一般的に「退去日の1〜2ヶ月前」が多い。期限を守らないと、退去後も家賃が発生し続ける場合があります。引越し日が決まったら、まず契約書の通知期限を確認しましょう。
- 契約書の「解約予告期間」を必ず確認
- 書面(メール・FAX)で通知し記録を残す
- 引越し業者の予約とあわせてスケジュールを立てる
STEP 2
退去前の清掃・荷物の整理
退去立会い(内見)の前に、室内の清掃・荷物の搬出を完了させましょう。エアコンのフィルター清掃、換気扇周辺の油汚れの除去など、通常の生活で汚れやすい箇所は入念に清掃しておくと立会い時の印象が良くなります。
- 冷蔵庫・洗濯機の水抜きを忘れずに
- エアコンのフィルター清掃
- ガス・電気・水道の閉栓・解約手続きを手配
STEP 3
退去立会い(室内確認)
貸主・管理会社の担当者と室内を確認する「退去立会い」を行います。この場で損耗・汚損の状態を確認し、原状回復費用の概算を確認します。立会い時に提示された費用に納得できない場合は、その場で署名・捺印せずに持ち帰って確認することができます。
- 入居時に撮影した写真と比較する
- 費用の根拠(単価・面積)を確認する
- 納得できない項目は署名前に確認・交渉する
STEP 4
原状回復費用の精算
立会い後、数週間以内に原状回復費用の精算書が届きます。敷金から原状回復費用を差し引いた残額が返還されます(敷金が費用を上回る場合は追加請求)。精算書の内容に疑問がある場合は、国交省ガイドライン・消費生活センターの相談を検討しましょう。
- 精算書の各項目を国交省ガイドラインと照合
- 納得できない場合は消費生活センターに相談
- 精算書には受領確認の署名前に内容を確認
STEP 5
鍵の返却・敷金の受け取り
全ての手続きが完了したら鍵を返却し、精算後に敷金の返還を受けます。敷金返還は退去後1〜2ヶ月以内が一般的です(法律上の定めはありませんが、民法上は「退去後速やかに」が原則)。
- 合鍵・駐車場キーなど全ての鍵を返却
- 敷金返還の振込先口座を確認
- 転出届は引越し後14日以内に区役所へ
原状回復の範囲(国交省ガイドライン)
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、原状回復は「借主の故意・過失・善管注意義務違反による損傷を元に戻すこと」と定義されています。
経年劣化・通常の使用による損耗は貸主が負担するものが原則です。
借主が負担するもの(原則)
故意・過失・ペットによる損傷など
故意・過失による損傷
- ▶引越し作業でついた壁・床の傷
- ▶不注意による水漏れで生じたカビ・シミ
- ▶タバコのヤニ汚れ・においの染み付き
ペットによる損傷
- ▶爪とぎによる柱・壁の傷
- ▶マーキング(尿)による床・壁の汚れ・においの染み付き
- ▶ペットが噛んだ建具・壁紙の破損
通常を超える使用による損耗
- ▶長期間の換気不足によるカビ(結露放置)
- ▶飲み物をこぼしたまま放置したシミ
- ▶壁への釘穴・ネジ穴(下地ボードまで貫通したもの)
故意による変更・損傷
- ▶無断でのDIY・増改築(壁の塗り替え等)
- ▶許可のないエアコン設置による壁の穴
- ▶鍵の紛失・無断交換
貸主が負担するもの(原則)
経年劣化・通常の使用による消耗など
経年劣化・自然消耗
- ▶日照による壁紙・フローリングの色褪せ
- ▶画鋲・ピンの小さな穴(下地ボードへの影響のない範囲)
- ▶家電の自然故障(給湯器・エアコン等)
通常使用による消耗
- ▶フローリングの通常の擦り傷・傷
- ▶畳の色褪せ・通常使用による擦れ
- ▶壁紙の通常使用による薄汚れ
設備の経年劣化
- ▶築年数に見合った設備の劣化(蛇口のパッキン等)
- ▶耐用年数を超えた設備の修繕・交換
- ▶雨漏り等の建物自体の欠陥による損傷
特約がある場合の注意点
契約書に「ハウスクリーニング費用は借主負担」「畳の表替えは借主負担」などの特約が明記されている場合は、 原則に関わらず特約が優先されます(特約が有効とされる条件:消費者に不利益でないこと、明確に合意されていること等)。 入居前に特約の内容を必ず確認してください。
敷金返還の目安と計算方法
敷金から原状回復費用(借主負担分)とその他の費用を差し引いた残額が返還されます。
敷金返還額の計算式
(借主負担分)
(ある場合のみ)
計算例(一般物件の場合)
| 敷金(家賃2ヶ月分・8万円) | 160,000円 |
| ハウスクリーニング(特約) | -30,000円 |
| 壁紙交換(故意の傷・借主負担) | -20,000円 |
| 返還額 | 110,000円 |
計算例(ペット可物件の場合)
| 敷金(家賃3ヶ月分・9万円) | 270,000円 |
| 消臭・脱臭クリーニング | -50,000円 |
| 爪とぎによる壁・床の補修 | -40,000円 |
| ハウスクリーニング(特約) | -35,000円 |
| 返還額 | 145,000円 |
※ 上記は参考例です。実際の費用は物件の規模・損耗の程度・地域の相場によって異なります。
ペット可物件の退去時の注意点
ペット可物件では、ペットに起因する損傷・汚染は借主負担が原則です。日常的なケアと退去前の確認が費用を抑える鍵です。
消臭・脱臭クリーニング
ペット飼育による臭いは壁材・床材に浸透しやすく、通常のクリーニングでは除去が難しい場合があります。専門業者による消臭・脱臭処理が必要になることが多く、費用は部屋の広さや臭いの程度により異なります(1LDKで3〜7万円程度が目安)。
爪とぎ・マーキングによる補修
猫の爪とぎによる柱・壁の傷、犬猫のマーキング(尿)による床・壁の染みは借主負担となります。入居中は爪とぎ防止シート・ペットシートの活用、こまめな清掃で損傷を最小限に抑えることが重要です。
退去前の日常清掃を丁寧に
ペット毛・ペットの砂(猫砂等)の清掃は退去前に念入りに行いましょう。エアコンのフィルターや換気口にペット毛が詰まっていると、クリーニング費用の増加につながります。
入居時の飼育条件を再確認
ペット可物件でも「犬のみ可」「1頭まで」「大型犬不可」などの条件がある場合、契約条件を超えた飼育による損傷は全額借主負担となるうえ、契約違反による損害賠償請求のリスクもあります。
入居時の写真を保管する
入居当初に室内・ペット関連の箇所(柱・壁の下部・床など)を写真撮影しておくと、退去時に「入居前からの傷か否か」を証明できます。日時入りの写真(スマートフォンの位置情報タイムスタンプ等)が有効です。
特約の内容を入居前に確認
ペット可物件では「退去時の消臭クリーニング費用は借主負担」「壁紙は全面張り替え」などの特約が設けられていることがあります。入居前に契約書の特約を確認し、内容に同意した上で入居することが大切です。
退去トラブルを防ぐためのポイント
入居時からの準備が、退去時のトラブルを大幅に減らします。
入居時にやっておくこと
- 室内全体を写真・動画で記録する(傷・汚れの既存状況)
- 柱の下部・壁の傷など目立たない箇所も漏れなく撮影
- 入居チェックシートに既存の傷を漏れなく記入し、コピーを保管
- 設備(エアコン・給湯器)の動作確認と不具合を報告
- 特約の内容(ハウスクリーニング・ペット条件)を確認
- 鍵の本数を確認(合鍵含め全本数を把握)
退去立会い時のチェックリスト
- 入居時の写真と現状を担当者と一緒に比較する
- 指摘された傷・汚れの原因(経年か故意・過失か)を確認
- 修繕費用の単価・面積の根拠を書面で確認
- 経年劣化・通常使用の範囲として認められるか確認
- 納得できない費用は署名前に書面で回答を求める
- 立会い後の精算書(最終版)を必ず受け取る
退去・原状回復についてよくあるご質問
退去・敷金返還に関してよくいただくご質問をまとめました。