契約書は「サインする前に読む」が大原則
賃貸借契約書は、入居者とオーナーの権利・義務を規定する法的文書です。しかし実務では、契約当日に初めて目を通し、内容を十分に理解しないままサインするケースが後を絶ちません。その結果、退去時に「こんな費用負担があるとは知らなかった」「この条件は聞いていない」というトラブルに発展します。
オーナー側も同様です。管理会社に契約書の作成を一任して中身を確認していないと、後から「その条項ではオーナーが不利だ」と判明することもあります。入居者・オーナー双方が契約書の内容を正確に理解することが、健全な賃貸借関係の土台です。
以下では、特に見落とされやすく、トラブルの原因になりやすい条項を解説します。
落とし穴1:原状回復の範囲があいまい
退去時トラブルの最大の温床が「原状回復義務の範囲」です。
国土交通省のガイドラインでは、「通常の使用によって生じた損耗・経年劣化」はオーナー負担、「入居者の不注意・過失による損耗」は入居者負担とされています。しかし、契約書にこの原則を上回る独自の規定が盛り込まれているケースがあります。
たとえば、「退去時のクリーニング費用は入居者負担とする」という条項は、ガイドラインではオーナー負担とされる部分をそのまま入居者に転嫁するものです。この条項が有効かどうかは、賃料との兼ね合いや消費者契約法の観点から争われることもあります。
確認すべきポイント:
- 「原状回復の範囲」が具体的に記載されているか
- クリーニング費用の負担主体が明記されているか
- ガイドラインと著しく乖離する特約がないか
落とし穴2:更新料・更新手数料の設定
賃貸借契約は通常2年ごとに更新されますが、更新の際に発生する費用については契約書で確認が必要です。
更新料:更新の際にオーナーへ支払う費用。仙台市内では更新料なしの物件も多いですが、一部では家賃1ヶ月分を設定している物件もあります。
更新手数料:更新の際に管理会社へ支払う事務手数料。家賃の0.5〜1ヶ月分が相場です。
これら二つが両方設定されている場合、2年ごとに家賃2ヶ月分近い費用が発生します。入居前に「更新時の費用総額」を把握しておかないと、長期入居するほど予想外の出費が積み重なります。
また、「合意更新」と「法定更新」の違いも知っておく必要があります。合意更新は双方が合意して契約を更新すること、法定更新は期間満了後に双方が特に異議を唱えず入居を継続することで自動的に更新される仕組みです。法定更新後は契約期間の定めがなくなるため、更新料の発生について契約書の記載を確認しておく必要があります。
落とし穴3:禁止事項が曖昧または過剰
契約書に定める禁止事項は、「入居者の生活を過度に制限しない範囲」で設定されるべきです。しかし中には曖昧な表現や、生活に支障をきたす過剰な禁止事項が含まれているケースがあります。
典型的な問題事例:
- 「一切の模様替え禁止」:壁に小さな絵を飾ることや、棚を置くことまで禁止されるような解釈が生じる可能性があります。「構造体への加工禁止」など範囲を明確にすべきです。
- 「ペット禁止」の範囲:金魚・小鳥・ハムスターなどの小動物まで禁止かどうかを確認しましょう。「犬・猫等の動物」と書かれている場合と「一切の動物」と書かれている場合では範囲が異なります。
- 「楽器の使用禁止」:ピアノ・ギター・電子楽器など、楽器の種類によって発する音量は大きく異なります。どの程度まで認められるかを具体的に確認しましょう。
落とし穴4:解約予告期間の設定
賃貸借契約を途中解約する際は、「解約予告期間」の設定を必ず確認しましょう。
借地借家法では、賃借人からの解約申し入れは「3ヶ月前の予告」が原則ですが、多くの賃貸借契約では「1ヶ月前の予告」と短縮されています。ただし、一部の契約書では「2ヶ月前の予告」を要件とするものもあります。
予告期間を守らずに退去した場合、残り期間分の家賃を請求されるリスクがあります。転勤や就職・転職などのライフイベントで急遽引越しが必要になったとき、予告期間の規定が大きな影響を与えます。
入居者として確認すべき点:
- 解約予告期間は何ヶ月前か
- 予告期間を過ぎた場合のペナルティ規定があるか
- 法人契約の場合、会社都合の転勤なら短縮できる特約があるか
落とし穴5:連帯保証人と保証会社の二重設定
近年、賃貸借契約では連帯保証人に加えて保証会社加入を必須とする物件が増えています。保証会社の保証料は通常入居者負担(家賃の50〜100%/年が相場)です。
問題は、連帯保証人と保証会社の両方が設定されている契約において、保証会社が代位弁済した後に連帯保証人に求償が来るリスクがある点です。連帯保証人になる親族は「保証会社も入っているから大丈夫」と安易に考えがちですが、法的には保証会社の保証範囲外のリスクについては連帯保証人が責任を負う可能性があります。
2020年民法改正のポイント:2020年4月施行の改正民法で、個人が連帯保証人になる場合は「極度額(保証の上限額)」の設定が義務付けられました。上限額が設定されていない個人連帯保証は無効となります。2020年以降に締結・更新された契約書は、この点を必ず確認しましょう。
落とし穴6:定期借家契約の見落とし
賃貸物件には「普通借家契約」と「定期借家契約」の二種類があります。多くの賃貸物件は普通借家契約ですが、一部の物件(再開発予定地・転勤中の自宅貸出など)は定期借家契約が採用されています。
普通借家契約:期間満了後も原則として更新可能。オーナーからの解約は正当事由が必要で、入居者の権利が強い。
定期借家契約:期間満了で契約終了。再契約は双方合意が必要で、オーナー側が再契約しないと決めた場合は退去必須。
定期借家契約は通常の物件より賃料が安いケースもありますが、「2年後には確実に退去しなければならない」というリスクを内包しています。契約書の表題や条文に「定期建物賃貸借」「定期借家」「期間満了による終了」等の文言があれば定期借家契約です。入居前に契約種別を必ず確認しましょう。
賃貸借契約書は、入居期間中ずっと双方を縛る重要文書です。「面倒だから」「担当者を信頼しているから」とサインを急がず、疑問点は必ず契約前に質問し、納得したうえで署名することが大切です。エムアセッツでは、オーナー様の契約書内容の見直しや、入居者様からの契約内容に関するご相談も承っています。お気軽にお問い合わせください。
著者
森 信幸
代表取締役 / エムアセッツ株式会社
宅地建物取引士(宮城県 第018212号)
仙台市青葉区を拠点に、シャーメゾンを中心とした高品質賃貸物件を所有・運営。全棟ペット可の方針で、入居者とペットが快適に暮らせる住環境づくりに取り組んでいます。
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