賃貸契約では退去時の原状回復トラブルが非常に多く、国民生活センターへの相談も年間数千件に上ります。その多くは「入居時からあった傷なのに退去費用を請求された」というもの。こうしたトラブルを防ぐため、入居前の室内確認と記録は必須です。
入居前チェックの重要性と法的根拠
賃貸住宅の原状回復ガイドライン(国土交通省)では、入居者の故意・過失による損耗は入居者負担、経年劣化・通常使用による損耗は貸主負担と定められています。しかし退去時に「この傷はいつからあったのか」を証明できなければ、入居者負担とされてしまうケースが多いのです。
入居前チェックは入居時点での室内状態を客観的に記録する行為であり、退去時の原状回復範囲を明確にする重要な証拠となります。写真にタイムスタンプ(日付)を残し、管理会社や貸主と共有しておけば、後日の言い分の食い違いを防げます。
室内チェックリスト:壁・床・天井
壁は最もトラブルが多い箇所です。クロスの破れ・シミ・変色・画鋲穴・釘穴・落書き・カビを重点的に確認します。特にエアコン周辺や窓際、家具を置く予定の壁は後から「どちらの責任か」が争点になりやすいため、アップで撮影しておきましょう。
床はフローリングの傷・へこみ・変色、畳の日焼け・シミ・破れ、クッションフロアの剥がれ・亀裂をチェックします。入口付近や窓際の日焼け、家具を置く場所の既存凹みは見逃しやすいポイントです。照明を斜めから当てると細かい傷が見えやすくなります。
天井はクロスの剥がれ・シミ・雨漏り跡・カビを確認します。天井の雨漏り跡は建物の瑕疵であり入居者責任ではないため、発見したら必ず写真に残して管理会社へ報告してください。
水回りのチェックポイント
キッチンはシンクの傷・サビ・水垢、蛇口の水漏れ、排水口の詰まり・異臭、コンロ周りの焦げ・油汚れ、換気扇の動作と汚れをチェックします。給湯器が正常に作動するか、水圧は十分か、排水時にゴボゴボ音がしないかも確認しましょう。
浴室・トイレはカビ・水垢・排水不良・換気扇の動作・シャワーの水圧・便器のひび割れ・ウォシュレットの動作を確認します。浴室ドアのパッキン劣化や換気扇の異音は建物の経年劣化に該当するため、写真を残しておけば退去時の負担を避けられます。
洗面所は蛇口の水漏れ・鏡のくもり・収納扉の開閉・排水の流れをチェックします。洗濯機置き場の排水口にゴミが詰まっている場合は清掃を依頼しましょう。
建具・設備のチェック
ドア・窓は開閉のスムーズさ、鍵の施錠・解錠、網戸の破れ、サッシのガタつき、窓ガラスのひび割れを確認します。玄関ドアの鍵が回しにくい場合は早めに交換を依頼してください。防犯上のリスクがあります。
収納はクローゼット・押入れの扉開閉、内部のカビ・シミ・異臭、棚やハンガーパイプの破損をチェックします。特に湿気がこもりやすい北側の収納は要注意です。
エアコン・給湯器・インターホンなどの設備は実際に動作させて確認します。エアコンから水漏れや異臭がする場合、内部にカビが繁殖している可能性があるため、クリーニングを依頼しましょう。
写真撮影と記録の残し方
スマートフォンで各所を撮影する際は、全体を撮った後、気になる箇所をアップで撮影します。写真には自動的に日時が記録されるため、撮影後にファイル名を変更せずそのまま保存してください。
撮影枚数は最低50枚以上を目安に、各部屋・水回り・建具・設備をすべて網羅します。動画撮影も有効で、「入居日の室内状況」として一連の流れを記録できます。
撮影データはスマホ本体だけでなくクラウドストレージ(Googleフォト・iCloud等)やUSBメモリにバックアップしておきましょう。退去は数年後になるため、スマホ機種変更や故障でデータが失われると証拠能力がなくなります。
管理会社への報告と立会確認の実施
チェックリストと写真をまとめたら、入居後1週間以内に管理会社へメールまたは書面で報告します。「入居時点で確認した既存の傷・汚れ一覧」として、写真を添付して送付してください。
可能であれば入居立会い時に管理会社担当者と一緒にチェックし、その場で双方署名した確認書を作成するのが理想です。仙台市内の管理会社では入居立会いを実施するところも増えていますが、省略されている場合は自ら依頼しましょう。
報告に対して管理会社から「確認しました」という返信をもらっておけば、退去時の交渉で有力な証拠となります。
退去時の原状回復トラブル実例
仙台市内のある入居者は、壁の画鋲穴について「入居時からあった」と主張しましたが、記録がなく証明できず、クロス張替費用3万円を負担させられました。一方、入居時写真を保存していた別の入居者は、同様の穴について「入居前の写真に写っている」と証明でき、費用負担を回避できました。
原状回復トラブルの多くは証拠の有無で結論が決まります。面倒でも入居前チェックを徹底することが、退去時の不当請求を防ぐ最善策です。
まとめ
賃貸入居前の室内確認は、退去時トラブルを防ぐ最重要作業です。壁・床・天井・水回り・建具・設備をすべてチェックし、写真50枚以上を撮影してクラウドにバックアップしてください。入居後1週間以内に管理会社へ報告し、可能であれば立会確認を実施しましょう。この記録が数年後の退去時にあなたを守る証拠となります。
著者
森 信幸
代表取締役 / エムアセッツ株式会社
宅地建物取引士(宮城県 第018212号)
仙台市青葉区を拠点に、シャーメゾンを中心とした高品質賃貸物件を所有・運営。全棟ペット可の方針で、入居者とペットが快適に暮らせる住環境づくりに取り組んでいます。
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