入居者には家賃を下げる権利がある
「大家さんが修繕してくれない」「騒音被害が続いているのに対応が遅い」——こうした状況に置かれている入居者の中には、「家賃を払い続けるのが理不尽だ」と感じている方も多いだろう。実は、一定の条件を満たせば、入居者は法律に基づいて家賃を減額するよう請求することができる。
その根拠となるのが借地借家法32条(賃料減額請求権)だ。同条は「建物の賃料が、租税その他の負担の増減、土地建物の価格の変動、その他の経済事情の変動により、または近傍同種の建物の賃料に比較して不相当になったときは、当事者は将来に向かって賃料の増減を請求できる」と定めている。
また、民法611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)も入居者の権利を支えている。設備の機能不全など賃借物の一部が使用できなくなった場合、その割合に応じて当然に賃料が減額される仕組みだ。
どんなケースで使えるか
賃料減額請求や民法上の当然減額が検討できる代表的なケースを挙げる。
設備の故障・機能不全が長期間放置された場合
給湯器が壊れてお湯が出ない、エアコンが夏場に故障して修繕されない、雨漏りが続いているといったケースでは、住居の一部が使用できない状態にある。民法611条によれば、使用不能な割合に応じて賃料は当然減額される。
建物や設備の著しい老朽化
断熱材の劣化による夏冬の極端な室内温度、外壁からの水漏れなど、建物の状態が入居時と大きく異なり、通常の居住が困難になっている場合も対象となりうる。
賃料が近隣相場と比べて著しく高くなった場合
周辺の家賃相場が下落しているにもかかわらず、自分の賃料が据え置きのままの場合、借地借家法32条に基づく減額請求が可能だ。ただし、減額が認められるには相場との乖離が明確であることが必要で、交渉や場合によっては調停・裁判が必要になることもある。
賃料減額請求の手順
ステップ1:状況を記録する
設備故障や不具合の状況を写真・動画で記録し、発生日時と内容をメモしておく。後に交渉や調停・訴訟になった場合の証拠として重要だ。
ステップ2:貸主・管理会社に書面で修繕を要求する
まず口頭ではなく書面(メール・内容証明郵便)で修繕を請求する。修繕の要求日時と内容を記録に残すことで、「対応を求めたにもかかわらず放置された」という事実を明確にできる。
ステップ3:修繕が行われない場合、賃料減額を申し入れる
相当な期間(目安として1〜2週間以上)が経過しても対応がない場合、「設備不具合による居住利益の低下を理由に、賃料の一部減額を求める」旨を書面で通知する。減額割合の目安は不具合の程度によるが、主要設備(給湯器・エアコン)の完全停止で5〜15%程度の減額が認められた事例がある。
ステップ4:話し合いがまとまらない場合は調停・裁判
賃料減額について合意できない場合、裁判所に「賃料減額調停」を申し立てることができる。調停は費用が比較的安く、話し合いによる解決を目指す手続きだ。それでも解決しない場合は、通常訴訟(60万円以下なら少額訴訟も可能)に移行することになる。
減額中の賃料支払いはどうするか
重要な注意点がある。賃料減額請求をした場合でも、減額が正式に確定するまでの間は、自分が相当と考える額を支払い続けることが原則だ(借地借家法32条3項)。
一方的に賃料を大幅に減額したり、支払いを完全に止めたりすると、貸主から「賃料不払いによる契約解除」を主張される恐れがある。減額交渉中は従来の賃料を支払いつつ、差額分を「異議を留めた支払い」として行うか、供託(法務局に預ける)することで自分の権利を守ることができる。
騒音被害の場合の賃料減額
他の入居者からの騒音被害が長期にわたり、貸主(管理会社)が適切な対応をとらない場合も、賃料減額の対象となりうる。ただし、騒音の程度(受忍限度を超えているかどうか)と、貸主が善良な管理者として相応の対応をとっていたかどうかが判断基準となる。
騒音被害を理由に賃料減額や損害賠償を請求した裁判例も存在するが、立証のハードルは高い。騒音測定(スマートフォンのアプリでも計測可能)、日時の記録、管理会社への連絡記録を積み重ねることが重要だ。
仙台の入居者が相談できる窓口
賃料減額請求や設備修繕に関するトラブルで困ったときは、以下の窓口を活用しよう。
- 仙台市消費生活センター:賃貸借に関する消費者トラブルの相談窓口。無料で相談できる。
- 法テラス(日本司法支援センター):収入が一定以下の場合、弁護士費用の立替制度を利用できる。
- 宅地建物取引業協会の相談窓口:不動産取引に関する相談が可能。
エムアセッツ株式会社でも、入居中のトラブルや契約に関するご相談をお受けしている。一人で抱え込まず、早めに専門家へ相談することをおすすめしたい。
まとめ
賃貸住宅の設備不良や家賃相場の変化が生じた場合、入居者には法律上の賃料減額請求権がある。ただし行使には正しい手順を踏むことが重要で、無断で賃料を減額すると逆に契約解除のリスクを負う。状況を記録し、書面で請求し、専門家に相談しながら対応することで、入居者として正当な権利を守ることができる。
著者
森 信幸
代表取締役 / エムアセッツ株式会社
宅地建物取引士(宮城県 第018212号)
仙台市青葉区を拠点に、シャーメゾンを中心とした高品質賃貸物件を所有・運営。全棟ペット可の方針で、入居者とペットが快適に暮らせる住環境づくりに取り組んでいます。
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