敷金は明渡しを終えたときに返還されます
賃貸物件を退去したあと、敷金がいつまでにどのように戻るのかは、民法に定めがあります。民法第622条の2は、賃貸人が敷金を受け取っている場合に、賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたときは、受け取った敷金の額から賃借人の債務の額を差し引いた残額を返還しなければならないと定めています(出典: e-Gov法令検索 民法)。
ポイントは次の3つです。
- 返還のタイミングは、賃貸借の終了だけでなく、部屋の明渡しを終えて返還したときです
- 返還されるのは、家賃の未払いや原状回復費用などの債務を差し引いた残額です
- 賃貸人は敷金を債務の弁済に充てることができますが、賃借人の側から「最後の家賃に敷金を充ててほしい」と請求することはできません
この規定は改正民法で明文化されました。それ以前も判例で同様の考え方がとられてきましたが、古い契約では適用される法律が異なる場合があります。改正の全体像は民法改正で変わった借主保護のポイントで整理しています。
借主の敷金返還請求権にも時効があります
敷金の返還を求める権利は債権の一種であり、一定期間行使しないと時効で消滅します。民法第166条は、債権者が権利を行使できることを知った時から5年間、または権利を行使できる時から10年間行使しないときに、債権は時効によって消滅すると定めています(出典: e-Gov法令検索 民法)。
敷金返還請求権は、前述のとおり明渡しを終えた時に具体的に発生すると考えられています。借主は自分の退去の事実を当然知っているため、実務上は退去(明渡し)の日から数えて5年を目安に考えるのが安全です。時効の起算点は個別の事情で判断が分かれることがあるため、期限が近い場合は専門家に確認してください。契約書に返還時期の定めがある場合は、その期限を過ぎたら催促できます。時効を待たず、記録が残っているうちに早めに動くほうが交渉しやすくなります。
貸主が請求できる期間にも制限があります
原状回復の費用を借主に請求できるかどうかは、民法第621条が基準になります。賃借人は、賃借物を受け取ったあとに生じた損傷について、賃貸借が終了したときに原状に復する義務を負いますが、通常の使用による損耗と経年変化は除かれています(出典: e-Gov法令検索 民法)。
貸主側の請求には、期間の制限もあります。民法第600条は、契約の本旨に反する使用または収益によって生じた損害の賠償は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならないと定めています。また、貸主が返還を受けてから1年を経過するまでの間は、その損害賠償請求権の時効は完成しません(出典: e-Gov法令検索 民法)。
退去から時間がたって原状回復の請求書が届いた場合は、この規定の対象になるか、契約書の特約がどうなっているかを確認しましょう。通常損耗と借主負担の線引きは通常損耗と入居者負担の境界線が参考になります。
時効が近いときは催告だけでは足りません
内容証明郵便を送れば時効が止まる、と考える方は少なくありません。しかし、民法第150条は、催告があったときはその時から6か月を経過するまでの間は時効が完成しないと定めるにとどまり、猶予された間にした再度の催告は猶予の効力を持ちません(出典: e-Gov法令検索 民法)。
つまり、催告は6か月の猶予を得るだけで、その間に交渉がまとまらなければ、訴訟などの手続きを検討する必要があります。少額の返還請求であれば、簡易な手続きを使う選択肢もあります。少額訴訟を活用した敷金返還請求の実務ガイドを参考にしてください。
退去前後のタイミング別・相談の目安
敷金トラブルは、後になるほど証拠が減り、選べる手段も少なくなります。次の時点で「おかしい」と感じたら、早めに確認や相談をすることをおすすめします。
- 退去の連絡をする前: 契約書の特約(クリーニング費用の負担、原状回復の範囲)と、返還時期の定めを確認します
- 退去立会いの当日: 見積書や確認書に、その場で署名する必要はありません。持ち帰って検討できます。流れは退去立会い完全ガイドにまとめています
- 精算書や見積書を受け取った直後: 項目ごとの数量・単価・借主負担の理由を確認し、納得できない項目は書面で理由を尋ねます
- 返還期限を過ぎても入金がないとき: 貸主または管理会社へ書面で催促し、やりとりを記録に残します
- 話し合いで進まないとき: 相談窓口の利用を考えます。窓口の種類は賃貸トラブル相談窓口ガイドで紹介しています
国土交通省は、原状回復をめぐるトラブルの未然防止のため、ガイドラインを公表しています。通常損耗や経過年数の考え方、特約の扱いが示されているので、精算内容を確認する際の基準として役立ちます(出典: 国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン)。特約の有効性が気になる場合は、賃貸契約書の無効な特約を見分ける方法も参考になります。
請求に備えて手元に残しておきたい記録
時効の期限内でも、記録がなければ主張は通りにくくなります。次のものを保管しておきましょう。
退去後の請求は「いつまでに、何を根拠に」を意識して進めることが大切です。個別のケースで判断に迷うときは、弁護士や公的な相談窓口などの専門家にご相談ください。
著者
森 信幸
代表取締役 / エムアセッツ株式会社
宅地建物取引士(宮城県 第018212号)
仙台市青葉区を拠点に、シャーメゾンを中心とした高品質賃貸物件を所有・運営。全棟ペット可の方針で、入居者とペットが快適に暮らせる住環境づくりに取り組んでいます。
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